« 北九州「甘い丘」演出日記・5 | ばらこ胸中吐露辞典 トップ | 北九州「甘い丘」演出日記・7 »
吐露始め 2009/09/18 金曜日

北九州「甘い丘」演出日記・6

AMI_0486.jpg

9月11日 通し稽古
 
信じられないことに、今日はもう通し稽古なのである。
更に信じられないことに、明日は初日なのである。
考えると怖くなるのでその日一日にひたすら集中しようと努めてきたが、ここまで来るとさすがに本番が迫っていることを意識せずにはおれない。
しかし、当然その日はやって来る。

照明プランがほぼ確定し、花れんちゃんの歌も細部まで決まってきた。効果音などの音響にいたっては、既に完璧に近くなっている。
とにかくビバ!!スタッフさん、という感じである。
照明は美しく、音響は文句のつけようがない。
そして花れんちゃんの歌は、心地よく耳に残る。
舞カンさんも、演出部の皆さんも、なんと頼れる人たちだろう。
本当は夕方一回の通しでもいい、ということなのだが、半端に抜き稽古をするよりも、とにかく通したいという想いが強く、昼夜二度の通しを希望。
初日の本読みから、まだ全場を通したことはなかったので、強行スケジュールでお願いすることにした。

一回目。昼通し。
当然と言うべきか、予想通りというか、序盤は皆ガチガチに緊張している。
そのため、稽古でうまくいっていたテンポの良い台詞も、ところどころに間が空き、ペースが崩れる。
これは仕方ないと思う。むしろ、必要な課程だとも思う。
役者自身が、気持ちいいテンポと、気持ち悪いテンポ、そのどちらも知ることが大事なんだと思う。
茶碗蒸しに出来る「す」のように、時々スカッとした間が空いてしまうとき。
アア気持ち悪いな、と思うことで、自分なりの埋め方を考えていくようになるのだと思う。
最初から完璧を求めるコトはないんだと感じる。

稽古途中、二日ほど劇場を離れていた能祖さんが通しを見ている。
これが私には、緊張する。
能祖さんは芝居を観ているとき、まっこつ怖い顔をしている。
面白いのか?つまらないのか?わからない。いや、むしろ「きっとつまらないと思っているのだ」とすら、思ってしまうしかめっ面なのだ。

それで私は「転校生」のオーディション時を思い出した。あの時も確か、こんな怖い顔をしてみていて、「なんて怖いおじさんだろう」と震撼したものだった。
が、ある時、私はそんなしかめ面の能祖さんの前で失敗してしまった。
忘れもしない、オリザさんの「阿房列車」の台詞をかけあいしていたときだ。相手役は、現KAKUTA演助のタムちゃんである。
台詞を喋りながら意識を分散させるという稽古で、私はわざと足をブラブラさせたり、手を動かしたりしながら長い台詞を言っていた。
だが、意識の分散は足や手どころじゃない、目の端に写るオリザさんや奥で怖い顔をしている能祖さんにも分散しまくっており、ついに私はテンパッた挙げ句、舌を噛んで、台詞をロレりまくってしまった。
「すいません」と謝った直後、周囲からどっと笑いが来た。
その時、あの怖い顔だった能祖さんが大きく相好をくずし、座っている椅子をぐるりと回転しながら、手を叩いて大笑いしたのだ。
あの時の能祖さんの笑いが、どれほど私の緊張を解いたか、ご本人は知るよしもあるまい。
ともかく、その日から、「怖いおじさま」という印象は消え去った。「怖い顔だけど優しいおじさま」である。
そして、その目はやぶにらみでなく、しっかりその場に起きている芝居を、愛を持って見つめていてくれたのだとも知る。
だから今回の通し稽古だって、きっとそうして観てくれているはずなのだ。
わかっている。わかっているけど…。
ああやっぱり、能祖さんてば、怖い顔なんだから…!

前半ギクシャクしたものの、後半は持ちかえし、一回目の通しは終了。
特に後半は、グッと惹きつけるものがあった。
能祖さんは、怖い顔のまま、「非常に完成度が高く上がってますよ」と言ってくれるのだが、怖い顔なので相変わらずビクビクして聞いてしまう。だが、いくつか気になるダメ出しなどを的確に出してくれ、それをふまえてダメ出しをし、夜の通しを行った。

Image5721.jpg
シンガーソングライター・花れんちゃん。
同い年。美しく、カワイイが、実は筋肉もりもりだったりもする。

夜、二度目の通し。
昼間の通しで間の悪さを感じたのか、今度はテンポが良すぎるくらいに良い。
ちょっと早くて落ち着かない箇所もあるが、昼に比べ、シーン運びが抜群に良くなっているので、この間を目指せばいいのだと思った。然治幹治は、ハイテンポの方が絶対に面白い。この兄弟にしかないテンポ感が出ると、グッと場が盛り上がる。

明るい雰囲気でのダメ出し。KAKUTAでもそうだけど、いい通しをしたあとと、そうでない時は、皆の前に向き合った時点で既に空気が違うものだ。皆疲れていたけれど、今日は皆いい顔をしている。
なんと昼と夜の通しではタイムが7分も違った。夜の通しは皆駆け足だったのだろう。
後半のシーンも、早くなった。
昼の通しでややウェットになりすぎていた感があったねと伝えたところ、今度はあっさりしすぎてしまった。終盤のシーンはやはり、そんなに気にせず、心を込めていきましょうと確認し合う。

それにしても、日に日にかの子と虎杖の関係が深まり、胸を掴むシーンになっていく。
虎杖の木訥で真っ直ぐな想いに胸を打たれ、また、かの子の心の揺らぎが、稽古を追うごとに大きく、豊かな波紋を拡げるようになった。
自分の描いたモノにもかかわらず、密かに涙ぐんでしまう。
また、鳶音が良い。冬のシーンで、鳶音が背負う、孤独でシンとした時間。短いシーンだが、とても印象深く残る。

ダメ出しが終わり、稽古場をばらす。ついこないだ稽古場入りしたばかりなのに…というのは、体感時間としての感想ではなく、物理的な日の短さ。
ここでキャストたちは、私が演出する劇場稽古が終わっても皆で自主練習をし、また、朝も私より早く稽古場に来て、合わせ稽古をしていた。
稽古は13時~20時が基本だったが、皆は10時~22時とかで稽古をしていたのだ。
どれほど疲れているだろう。
だけど誰も、その疲労を顔に出している人はいない。

吐露終わり
もくじ
か行 (8)
さ行 (18)
た行 (20)
な行 (10)
は行 (1)
ま行 (12)
デエトブログ (1)
フォトギャラリー (22)
日記 (52)

最近の5件