2009年09月19日

松本清張、『或る「小倉日記」伝』-原扶貴子

%E9%96%80%E5%8F%B8%E6%B8%AF%20030a.JPG

しっとりと、こんにちは。
今日はもう19日。
そう、北九州リーディング初日からはや一週間たったわけです。
東京に戻ってきてからの一週間と、北九州にいた一週間、
アインシュタインもびっくりの体感時間の差です。北九州での時間は濃密だったなー。
そして、こうしている間にも、北九州では北九州の時間が流れている。
しかし、そこに私はもう居ない…こんな書き方で、己の感傷を無駄に煽ってしまうほど、北九州での時間は充実したものだったのです。
もちろん、北九州の「甘い丘」を経て、KAKUTA「甘い丘」へ向けての期待と気合は十分です。

そんな稽古漬けの日々の中、さぞや台本と首っ引きだったろうよと想像される方もいらっしゃるかもしれません。が、私はそうなると途端に視野が狭くなってしまうタイプの役者なので、一日のわずかな時間でも、深呼吸して自分をリセットする時間を作るようにしています。
そんな時に最適なもののひとつは読書。
せっかくなので、滞在地である小倉(こくら)にちなんだものはないかと書店を物色したところ、ありましたよありました!!


『或る「小倉日記」伝』 松本清張著


松本清張氏は小倉出身の作家で、小倉城のそばには記念館も建てられており、また今年がなんと生誕100年目とのこと。適時打。タイムリー。
お恥ずかしながら松本清張は未読だったので、ズバリ今がその時でしょう。

「黒革の手帳」「点と線」などドラマ化されたもののイメージで、このお話もミステリーの類かしらとよみはじめたのですが、芥川賞受賞はダテではありませんでした。

今この本を読んでいる、この小倉の地を耕作が奔走し、鴎外を追い続けたと思うと、カフェのイスに腰掛ける足元にも力が入ります。
これぞ、小説の舞台となっている土地で読書する醍醐味でしょう。

そして思うのは一市井の幸せってなんだろうということ。
夜空にたったひとつ燦然と輝くシリウスは素晴らしい。
そんなシリウスのように、世の中に認められた唯一無二の天才というのにはとても憧れる。
けれど、大多数の人間はそうはなれない。
それでも自分なりの意義を見つけて生きていかなければならない。
懸命に生きる地上の何万の人たちが燃やす命を客観的に見ることができるならば、それはきっと無数の星々が輝く夜空のようにとても美しいに違いない。そう思いたい。

そんなことを思いながら、読み終えたこの本を鞄にしまい劇場へとつづく橋を渡ると、その欄干には「おうがいばし」と書いてあった。
その瞬間、鴎外の足跡を見つけるたびに高揚した耕作の気持ちが、鴎外という文豪が暮らした町で創作を続けた清張の気持ちが、胸に押しよせてきた。

%E6%9D%BE%E6%9C%AC%E6%B8%85%E5%BC%B5.JPG