2010年09月07日

「ご新規熱血ポンちゃん」-桑原裕子

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近頃ワタシ、ビューティー・ストレートヘアを維持するのに必死である。
長く同じスタイルでかけ続けていたデジタルパーマをやめストレートにしたら、
毛先が痛んで陰毛のようにうねっているのがショックで、
「ティモテ~ティモテ~♪」
懐かしのメロディに乗せ、せっせとトリートメントをはじめた。
お陰で以前に比べ少しばかりサラサラになり、
そうなると自分の美しい髪(でも毛先はまだバッサバサ)が愛しくなり、
90年代のワンレンギャルの如く、むやみに髪をかきあげたくなる。
荒々しくかきあげた髪が、はらり自分の耳元に落ちてくるとき、
うっとりと、ほんのちょっと「山田詠美気分」になる。
世慣れたいい女。それが彼女へのイメージだ。

山田詠美はもちろん若い頃から知っていたけど、
当時はちょっと「手の届かないお姉さん」という気がしていた。
その印象のままいたからか、何作か読んだことはあったはずなのだけど、
自分に投影して読んだことはなく、憶えている作品も少ない。
だけど今さら彼女の人気エッセイ「熱血ポンちゃんシリーズ」を読みたくなったのは、
若手小説家の登竜門、芥川賞の選評がきっかけだった。

直木賞・芥川賞は、故・井上ひさし氏をはじめ、
私の好きな桐野夏生、川上弘美と名だたる人気作家が選考委員をしており、
その選評を読むだけでも面白いのだけど、
選考委員の個性もその評の語り口に出ているので面白い。
(ネットでも見れるので是非読んでみてください)
なかでも山田詠美の選評は、誰よりも単刀直入でピリッと辛口、そして痛快。
都知事の偏見に満ちた高慢な選評よりよほど説得力があり、
思わず吹き出してしまうものさえある。

それで、本当に今さらではあるが、「山田詠美を知りたい」と思った。
もちろん作家の彼女を知るなら、
「放課後の音符(キイノート)」など代表作を読むのが良いのだろうけど、
山田詠美個人にまず興味が沸いてしまった。
そこで、彼女のエッセイ「熱血ポンちゃんシリーズ」。
男の子と酒と文学が大好きで、豪気に酔いどれ、破天荒に生きる
通称「ポンちゃん」、あるいは「エイミー」と呼ばれる山田詠美の、
「ビバ自分!」な日々を綴ったものだ。

今までエッセイというものをいくつも読んできたつもりだけど、
エッセイってここまで自由にとめどなく書いても良いんだね、
と目から鱗が落ちるほど、彼女のエッセイはあちこちに話題が飛ぶ。
同じ話を何度も繰り返しているときもあれば、
相変わらず似たような日々が綴られていることも多く、
ここを狙おう、と「定める感じ」が不思議なほどない。
だから読みやすいというのとはもしかしたらちょっと違うのかも知れない。
時々ついていけないものもあれば、読み飛ばしてしまう部分もある。
だけどそれも自由じゃん?と言わんばかりに、彼女の話題は次から次へ、
待ったをかける間もなく移り変わっていく。
この感じ、何かに似てるなーと思ったら、
女友だちと朝まで長電話してしまうときの感覚に似てるんだと思った。
あるいは、彼女が好きな行きつけのバーで、時間の制限なく
ワインや焼酎をあおりながら、ダラダラとお喋りを続けているような感覚。

私はこう見えてお酒が飲めない。
そういうとみんなに驚かれるのだが、まったく飲めないわけじゃないんだが、
学生時代に飲んだくれすぎて、散々失態をさらしてしまい、
お酒は楽しむもの、という概念が芽生える前に、
「飲んだら大変な目に遭う」という教訓がすり込まれてしまったのだ。
だけど、お酒を飲む場にいるのは嫌いじゃない。
だから、彼女の好きな酒場に自分も行きたくなる。
それでももし飲めばやはり正体をなくし、またも失態を晒し、
「バラ、江頭みたいになってるよ」と言われ、
翌日は声がこれっぽっちも出ないくらいの廃人状態になってしまうだろうから、
私はコーラで良いです、と日和った声で言ってしまうかもしれないけど。

行きつけのバーもない私だけど、酔いたい夜もある。
飲んでクダを巻き、バカ騒ぎをして、明け方は男の子の膝枕で寝たい時がある。
そんな時は彼女のエッセイを読もう。
サラサラヘア(しつこいけど毛先はバサバサ)をかきあげつつ、
いい女とダメな女の仲間入りをした気分で、アイスココアを飲みながら。