2010年10月16日

是枝裕和著「小説ワンダフルライフ」-ヨウラマキ

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作者の是枝裕和氏は、映画監督です。
この作品も実は映画の小説版です。
私とこの本は、1999年、ノストラダムスの大予言の年からのお付き合いです。
このお話の舞台は、死んでから天国へ行くまでの一週間を過ごす施設です。登場人物は死者たちと職員。死者が天国へ旅出つには、記憶を選び、それを施設の職員の手によって映像化し、観ることが必要になります。
選ぶ思い出は十人十色。赤ん坊のころや、恋人との思い出、中にはおしいれの暗闇などさまざま。視覚だけでなく、聴覚、触覚、嗅覚なども細かく再現しなければなりません。だって、天国に持っていける唯一の記憶なのですから。
彼らは全員死者です。でもこの小説にいる人物たちは、みんな生きています。そのちぐはぐさが心地よいさみしさを醸し出し、作家の柔らかい文体が、私をやさしく包んでくれます。突き放されたような、くるまれているような、あいまいな空気がこの作品にはあります。そこが好きです。
そしてなにより、望月という職員さんが素敵なんです!こう、穏やかで影をしょっている感じとか、文学青年的な感じとか、しおりという職員が淡い気持ちを抱くのもうなずけます。実は彼には、秘密があったりするんですけど、それは読んでのお楽しみです。因みに、映画版ではARATAさんがこの役を演じていらっしゃるんですが、堪らなく素敵です。
そして何よりおすすめしたいのが、この本を読んでからでも、読む前でもいいので、映画版も観ることです。配給会社の回し者ではありません。視点がかなり違うので、二つとも個別の作品として楽しめます。その違いを体験するのもおもしろいです。
ちなみに今回わたしは、映画→小説という流れですすんでいます。今ちょうど、小説の水曜日が終わりました。

もし私ならば何を選ぶだろうか?と考えながら読むけれど、毎回選ぶことができません。それは私が今も息をして生きてるからかもしれないし、死というものが遠くに行ってくれたからかもしれないです。