2010年11月21日

夢枕 獏 著「神々の山嶺(いただき)」-大枝佳織

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「神々の山嶺(いただき)」
著者/夢枕 獏

ロマン。
この一言だった。

TUBEのアルバム「浪漫の夏」の影響を受け、大学受験の面接で好きな言葉、「ロマン」と答えたことを思い出す。
まさに、これは男のロマンなお話。

登山に精通しているわけでもなく、どちらかといえば興味などは全く無かったが、これは本当に面白い!
まさか自分が登山の話にここまで影響を受けるなんて思っても見なかった。
作者の「夢枕獏」さん、「陰陽師」の印象が強く他の作品の絵も取っ付きにくかった為、何だか敬遠していた。
夢枕さんを絶賛する人に勧められ、気が乗らないまま読んでみたが、読んで良かった。
読んだ後の数日はエベレストのことを考えたり、クレバスが足元にある様な気がして恐る恐る歩いたり、日常とは少しかけ離れたスリルある時間を過ごした。
壮大。まさに壮大。

主人公・羽生丈二が前人未到のエベレスト南西壁冬季無酸素単独登頂に挑むお話。
読むまでは無酸素がなんだか、南西壁がどうだかも良く分からなかったが、無知識でも、読み進めていくうちにルートによって難易度が大きく異なることや、冬季、単独、無酸素の厳しさなどが分かりやすく説明されており今では登山通になった感がある。
先日アルピニスト野口健さんが出演し無酸素単独登頂について話しており、私も「ああ、無酸素単独ね。」などと何だか身近に感じた。

「そこに山があるから」

エベレスト初登頂に挑んだジョージ・マロリーの言葉。
この名ゼリフも、この作品を読むまではパロディーやお笑いでしか聞いたことが無く、言葉自体の意味を良く知らなかった。

今ではこの言葉、何と素晴らしいロマン溢れる言葉だろうと胸が熱くなる。

話はこのマロリーの残されたカメラの謎と共に進行する。
マロリーの死については遺体からや遺品などから世界中で様々な論議がなされ、登頂前の死か登頂後の死なのかというところが大きな謎として残っている。
実話であることが信じられないくらい、ドラマな、ミステリーな話だ。。
壮大な雪山の中に一人で立ち向かう恐怖、休む暇なく自分を襲ってくる高山病の幻覚・幻聴、極限の中での描写で登場人物たちの心情がダイレクトに伝わってくる。
自分の悩んでいることや日々気にしていることの何と小さいことよ。
中日が日本一になれなかったことが何でしょう、若狭さんの空腹が何でしょう、松田くんの高音が何でしょう。
凍傷で手や足を次々と失っても山に挑む男たちには申し訳なくて言えないわ。いつも自転車で駅まで行ってしまう道、しばらくは歩いて行ってみようと思う。