2013年10月14日

「新潮45」編集部編『凶悪-ある死刑囚の告発』―若狭勝也

ある本が気になってた。
次回KAKUTA朗読公演の作品探し中、本屋に何度も通っている時に、見かけていた表紙。
僕が好きそうな作品のタイトルだった。

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でも、まだ朗読公演の作品が決まっていなくて読む時間もなかったので、買わずにすっかり忘れてしまっていた。

それからKAKUTA12月公演の作品も決まり、時間が出来てまたフラッと本屋に入った。
最近、映画化になっている本は、本屋でその映像を流したりしている。
画面に映っていたのは、
映画『凶悪』
山田孝之さんと、ピエール瀧さん、リリー・フランキーさん。

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今まで、ノンフィクション小説はあまり読んだ事がなかったので迷っていたが、その映像を見て買うのを決めた。
(本屋の策略にはまった。)

映像化された本があったら、先に小説を読むか映像を見るか、よく話になるけど、僕は先に小説かな。
映像を先に見ると、それから小説を読む事はあまりない。
小説が先だと、その映像が見たくなる。

今回良かったのは、
映像と言っても予告編だったので、詳しく内容は知らないまま小説を読み始めたけど、
読んでて登場人物の顔を思い浮かべる時に、山田孝之さんと、ピエール瀧さん、リリー・フランキーさんの顔を思い浮かべてたので、イメージしながら読めた。

東京拘置所に収監中の死刑囚から、新潮社に手紙が届く。
その手紙の内容は、警察も知らないその死刑囚の余罪、多数の殺人事件の告発だった。
死刑囚が余罪を告発したところで、死刑は変わらないのに告発する異例の出来事。
そしてそれらの事件の首謀者である「先生」と呼ばれる男の存在が書いてあった。
その先生と呼ばれる男は、いまだに野に放たれ、社会を闊歩している。その先生を追いつめたいので記事にして欲しいという死刑囚の告白に、当初は半信半疑だった担当記者。
新たな事件を告発する事で、死刑の期を先延ばししたいだけなのか。
しかし、取材を進めるうちに、その告発に信憑性があることを知り、真相を探るべく没頭してく。

保険金、不動産目当ての殺人事件で、とてつもなく恐ろしく非道で、
まさに『凶悪』の“数々”だった。

果たしてその結末は、、、。

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恐ろしい事に、これはフィクションではなく、実際に起こった話。
なんだか頭がグラグラします。
面白い本なんですが、なんというか「面白いです。」とは言えないというか、
好きな本になったんですが「好きです。」とは言えないというか、
でも、読んでホントに良かった。

命の尊さを考え、この事件の首謀者達に憤りを感じます。
現実の世の中にはいろんな事があって、いろんな人が居て、酷い人がもし居たとしたら、何故そういう人間になってしまったのか、なってしまうのか、というのも考えたり、
ホントに世の中の一部のやっと明るみに出た一つの少数の事件なのかもしれないけど、
生まれ育った環境や教育、人との付き合いの中で、そういう境遇に万が一巻き込まれる人間になってしまっていたとしたら、どうなってしまうのか。
人間とはどういう性質の生き物なのか、分からなくなってしまうけど、僕はこの事件に関わった人たちの性質が分からない。
僕がそう思えて生きていられる事に、なんというか、今まで育ててくれた両親、兄弟、親戚、友人、恋人、いろんなに出会えたお蔭で幸せに生きていられる事に感謝します。

でも、それはごく僕の個人的な感想であって、分かっていたつもりではいたけど、いろんな人が居る事を再認識した。
そして俳優という職業をしている以上、いろんな人間の感情、気持ちを知りたいという欲望もあって、研究心からこの本を読んでいたのかもしれない。

こういう事件がなくなる事を祈ります。
まだまだ世の中に出てきていない、酷い事があるんじゃないかと思うとゾッとしますが、
もしあったなら、こういう風に明るみに出して一つ一つ暴き出して欲しい。

被害に合われた方には、お悔やみ申し上げます。


この本を4分の3くらい読んだあと、
次回KAKUTA12月の朗読公演にも出演する、
原扶貴子がこの作品の映画に俳優として出演していると知り、以降はフキちゃんの役であろう人物が登場する時に、フキちゃんの顔も思い浮かべて読んだ。

たまたま手に取った本の映画に、友人が出演している。
映画が楽しみでしかたない。
フキちゃんの俳優としての活躍を楽しみに。

ご興味ある方は是非。
でも、知らなくてもいいかもしれない、、、。

ノンフィクション小説は、当事者の手記が多い。その場合、真実かもしれないけど、当事者側の意見が反映されるものが多いと知ったが、
これはあくまで、第三者である宮本さんが双方の意見を聞きながら、分析、取材したものなので読み手にとっても誰かに肩入れすることなく、事件を客観的に知る事が出来て、尚且つ読み物、小説として読み応えがある。

最後に、著者として表紙にはハッキリと記載されてないですが、
記者であり、今回の取材を重ねた「新潮45」編集長、
作者の宮本太一さん、本当にお疲れ様でした。