2013年10月21日

吉田戦車著『吉田電車』― 野澤爽子

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車・船・バス・バイク・自転車・飛行機…世の中にはいろいろな乗り物があり、どれもそれぞれの利便性や快適さ、面白みがあると思うが乗り物酔いしてしまう私は実は苦手なものが多い。
しかし電車だけはこれまで乗り物酔いしたためしがなく、乗るというそのものの行為にとてもワクワクする大好きな乗り物である。
そんな片寄った好き者の私の懐にこの一冊が飛び込んできた。
「吉田電車」
著者は漫画家の吉田戦車氏。
ジャケ買いという言葉があるが本屋で目にした途端、擬人化された椎茸が電車の上に勇ましく仁王立ちしている絵とタイトルに心を奪われてしまったのである。

内容は実際に戦車氏が電車とのあれこれを綴った連作エッセイで、私鉄・地下鉄・市電・新幹線など様々な電車が登場するのだがそれらの電車について熱っぽく書かれているというよりかは、電車に乗って行った先でのことが主になっている。
どこぞへとふらりと出掛けていき、地味で些細だが面白げな出来事に出くわしていく様子が戦車氏の独特な語り口と合間って実に心地良い。
そうして読み進めていくうちに、私も無性に電車に乗りたくなってしまったのでエッセイに登場する実際の場所へ出掛けることにした。

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「吉田電車」―【レール! 歳三うどんはミルク入り】の回に登場する高幡不動駅と多摩動物公園線。
多摩動物公園線は空中レール上を走るモノレールだ。

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著書の中でも触れられているが、普段あまり乗る機会のないモノレールに乗り空を飛んでいるような感覚に襲われながら動物園に向かうというのは妙なおかしみがありワクワクした。
そうして小雨がパラつく中あまり快活には動こうとしない動物たちを愛で歩いたのち、再びモノレールに乗って高幡不動駅に戻ってきた。
「せっかくだからお不動さんも見て行こうか!」
そう勇んで行ってみるも、こちらの閑散とした様子にはあまり心踊らなかった。

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しかし、それもまた「吉田電車」的電車旅の楽しみ方であるような気がして満足していると、お不動さんの目の前に鯛焼き屋ののぼりがあるのを発見した。

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あんことクリームチーズの2つの味があり、迷ったあげく私はクリームチーズを注文した。
鯛のシッポの先まで熱々のクリームチーズが詰まったそれは大変美味しく、お店の軒先にしつられられた小さな休憩処で温かいほうじ茶をふうふうやりながらいただいた。
地味で些細だが楽しいひとときであった。