2007年06月19日

第8回★成清正紀

小説は演劇とは違い、あまり場所や時間の制約を受けない表現である。
時間経過も季節の変化も、場所の移動も一言で簡単にこなしてしまう。
今回は朗読企画と銘打ってあるだけに、小説をそのまま読むことで進行していくのだが、
そこでその二つの表現の“差”を埋めてくれるもの、もっと言えば演劇にあって小説にないものが、もの凄く力を発揮することになる。
それは、音響だ。

KAKUTAにはずっと一緒に舞台を作っている島貫さんという方がいる。
劇団員達は彼を
「天才島貫」
と呼ぶ。ぼくと同じ年の天才。
優しく熱く思いやりのある彼の音響がぼくは大好きだ。
先行予約でもらえる『おまけCD』や、
サウンドプレイシリーズ「とまと2001」も彼が編集してくれており、
それらを聴けば彼の天才ぶりは判っていただけるはず。
こんな風に書いたら島貫さん嫌がるかもなあ。
でも、ぼくはそう思うので仕方がない。

音響が、ぼくらの脳みそを刺激して、別世界へ誘う。
リーディング・アクト・ビジュアル・サウンド
それらのコラボレーションが朗読企画の醍醐味で。
その大変重要な位置をしめる音響。

いつもよりに耳をかたむけて作品を観てみるというのも、
朗読企画の楽しみ方なのかもしれません。
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【★私が神に遭遇した日★】

「父の遺言」

ぼくはあまり神様の存在を信じない。
と言うよりも、あまり意識したことがないから、信じるかと聞かれた時には
「分らない。」
と答える。
そんなぼくが、特別な体験をした。

大学生の頃、ぼくのは長い長い闘病生活のあと、
1ヶ月以上続く昏睡状態にあった。
その夜も、ぼくは付きっきりで何も喋らぬ目さえ開けぬ父の手を、
目をつむりじっと握っていた。
すると、真っ暗なぼくの視界の中に数字が白く3つ浮かび上がる。

「11、3-7」

11。3と7の間に横棒一本。
「なんじゃこれ?」
と思って、もう一度父の手を握り、目をつむるとやはり、
「11、3-7」の文字。

思い当たることはあった。
ぼくはそのまま病院の公衆電話から、次の日見舞いに来てくれる予定だった当事の彼女に、
「明日“競馬場”行こか。」
と伝えた。突然のぼくの提案に彼女もびっくりしていた。

「なんで?」
「あ、いや。明日の阪神の“11レース3-7”ちゃうかなとおもて。」
「はあ?」
「お父さんが教えてくれてん。」
「・・・・・・。」

彼女は絶句していた。

父は、ぼくが小学生の頃から、よく競馬に連れて行ってくれた。
休みの前の日には、ぼく専用の競馬新聞を買ってきてくれて、二人で予想した。
しかし、父が体調を崩してからは、ぼくもほとんど競馬をしなくなった。
たぶんそうだ。父はぼくに明日のレースの予想を教えてくれたのだ。
そう思った。
しかし次の日、ぼくは馬券を買いには行かなかった。
まさか、そんなはずはないと。何かの間違いだと。
もし、純粋な予想であるなら、外れる可能性もあるわけで。
そんなことも考えて、行くのをやめた。

そして、次の日の夜のテレビは、
阪神の11レース3番7番の順で入賞した様子を伝えていた。
兄貴にそのことを伝えると、
「あほやなあ!俺に言うたら有り金全部突っ込んだのに!それはおとんの遺言じゃ!」
と言ってぼくの頭を小突いた。
父は自分の予想にすごく自信があったのかもしれない。
「まさのりっ、これは鉄板やで!!」
と、それで最後の力を振り絞ってぼくに伝えてくれたんじゃないかと。

次の週の予想を父に聞き出そうと手を握ってみたが、もう教えてはくれなかった。
それがとの最後の対話になったのだ。

いかにも父らしい遺言だと思った。