2009/05/27 水曜日
ひっさびさにこのところ、歯医者に通っている。
これまでも吐露部屋には何度か書いたが、私の通う歯医者は笑気麻酔をしてくれるところで、今や笑気なしに歯医者に行くことなど出来ない私だ。
診療椅子に座ったら、いざ鼻にマスクを装着し、イヤホンでCDウォークマン(古い)から大音量のハワイアンソングを流す。
これが私の歯医者治療の基本である。
笑気にまみれて聞くハワイアンは最高だ。
曲の中に波の音がBGMで入っているものはなお良い。
心はハワイのビーチへ飛び、診療台の白熱灯は輝く南国の日差しに取って代わる。
私の頭の中では歯医者さんは皆水着だ。私の担当をしてくれてるA先生は美人でスリムなので、小さいビキニが似合うだろう。
そんなことを想像していると、歯を削られているのにクスクス笑いが漏れてしまうから不思議だ。
しかし、最初こそ半信半疑で寝そべって気がつけばラリラリになっていた私だが、笑気のうま味を知り、その効力に慣れてくると、恐ろしいかな「あ、今弱い」「あ、酸素に変えやがったな」などと麻酔の出具合まで細やかにわかってくるようになる。
ラリリ度が弱いと途端にキーンという音が意識的に耳に届くようになってきて、急速に恐怖感が湧いてくるので困る。
ギッチリとラリラせていただいて初めて、私は歯医者の治療を受けられるのだ。
昨日は、ラリリ度が微弱なときいきなり歯の神経に抗生剤を塗られ痛みのあまり身もだえするというエマージェンシーな瞬間があったので、今日は鼻マスクを装着する際、歯科助手の方に「ガッチリかけてください」と念を押した。
にもかかわらず、今日もハレ…治療の途中で笑気の効き目が弱くなってきた。
ちょっとお、笑気をケチってるんじゃないでしょうね!
アタシはね、笑気を吸いに来てるんだ!
あたしの歯を治したきゃ、四の五の言わず笑気を出しな!
…などと大人しく口を開けているようで内心ではそんな暴力的な気分になっていると(でもBGMはハワイアン)、どうも笑気ガスが切れたらしい。
半分正気、半分笑気な私は、よもや「笑気を今日はなしでもいいですか」などと言われてはならないと、ぼやっとした顔のままで、しかし目だけは鋭さを保ちボンベの交換を見張った(しかしBGMはハワイアン)。
陽気なウクレレ音楽の中で観る歯医者の人間模様はなかなかに面白い。
気がつけば、この歯科は女性しかいない。
受付も、歯科医も、歯科助手も、全部女性だ。
まずは私の担当歯科医、美人だがどこか「トレンディ!」と言いたくなる90年代風のA先生。
先生の治療を受けているとき、いつもなぜ浅野ゆう子を思い出すのだろう、と思っていたら、昔浅野ゆう子が歯科医のドラマがあったからだった(好きだった)。
A先生の下についているオカッパ頭の歯科助手は、新人なのか性格なのか、どうも要領が悪いタイプらしく、ひたすら落ち着かない様子でボンベの周りをバタバタしているのだが、手順を間違えたのか取り外し方がわからないのか、いつまで経ってもボンベの交換が出来ない。イライラを隠すようにオカッパに指示していたトレンディA先生も、さすがに時間が掛かるので手伝い始める。
が、先生も普段はボンベの取り外しなどは範疇外なのか取ることが出来ない。
だんだんと慌てる二人。他の先生も様子を見に来る。
何せ私の治療はまだ始まったばかりで、顔の半分に麻酔をかけられたままほったらかしでハワイアンを聴いているのだから。
3、4人がかりで、入れ替わり立ち替わりボンベにトライしに来る先生方。全員女性。
そこへやって来るのが受付の女性。いかにも腕っ節が強そうな悪ガキ小僧の母ちゃんみたいな人で、A先生やオカッパ助手を一歩引かせてグイとボンベをひねったら、あっという間に外してしまった。
感心する一同。「ホラね」という風に得意げに頷き受付に戻っていく悪ガキの母。
ホッとして笑うトレンディ先生たち。
音楽の中で観る一連のそれはコメディアスなサイレントムービーのようだった。
しかし。
麻酔と笑気でラリッた私が一連をニヤニヤしながら見ていると、戻ってきたA先生はあろうことか「もう麻酔きいてるから笑気いらないヨネ☆」と言って、もう笑気をかけてくれなかった。
先生!!
そんなのひどい!!
あたし待ってたのに!!
私がにたにたしてたから?
先生たちに心であだ名をつけたから?
「大丈夫、これから先は三歳児でも泣かないようなことだから」
3歳児が耐えられるからといって、恐怖を知ってしまった32歳児が耐えられるとは限らないじゃないッ!!
しかし先生はなぜか「もしコレでも痛いならもうその歯はダメだから抜いた方がいい」と凄み、私を縮こまらせて治療を行った。
幸い「抜いた方が良い」と思われるような痛みに襲われることなく、治療は無事に終了したけれど、恐ろしいことを言われたので私はしばらくビクビクしていた。
きっと先生はボンベの取り外しに苦戦している様子をハワイアンを聴きながらにたにた見ていた私にちょっとムカっ腹が立ったのではないか。それで、ヘラヘラしてる私にちょっとイジワルを言ってやりたくなったんじゃないか。
すっかり怯えて耳がたれた私に、歯科助手・通称「お母さん」だけは、いつもと変わらず優しかった。
お母さん…。ありがとう…。勝手にそんな呼び名をつけてゴメンナサイ…。
トレンディ先生。オカッパ助手。受付の悪ガキ母。お母さん。にたにた患者(私)。
いつか歯医者のシチュエーションコメディをやってみたいな、などとボンヤリ思う。