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吐露始め 2009/09/18 金曜日

北九州「甘い丘」演出日記・5

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演出日記の傍ら、新劇団員マサとのデエトブログも更新したりしています。
こちら>「デエトブログ、マサ編」
そして甘い丘の台本もまた直さなければならないし、別の仕事もあるし、混沌としていますが、どれもこれも必ずや頑張りますのでもう少し日記書かせてください(誰に言っているのか)。

9月9日 立ち稽古、前半。

段取りをひとしきりつけ終わり、いよいよ今日から本格的な立ち稽古。
ギリギリではあるが、昨日までに何とかラストまでの立ち位置や動きなどをつけられたため、もう一度初めから。
イッチーが稽古の時間割スケジュールを立ててきてくれる。
この時間割がないと、私は予定通り稽古することが出来ない。
「押しても構いませんからね」とイッチーは言ってくれるが、私は決められたシーンまできっちりやりたい。こう思うようになったのは、プラチナ・ペーパーズの堤さんと一緒にお仕事をさせてもらうようになったからだ。
堤さんは、毎日キッチリ、予定通りのカリキュラムで稽古をこなす。全ての場を通すといったら、どれだけ稽古が不完全でも全場まで通す。
これは一見、細かい箇所にこだわらずガシガシ進めていくため打算的に取れそうだが、実は違う。
まず、役者が芝居の流れに体を慣らしていくのだ。
堤さんの稽古を受けている自分の経験上、そうして流れを充分に掴んだあとの方が、ダメ出しも吸収しやすかった。細かい箇所を時間かけてやらせてもらうのも役者としては個人的には好きだし、大事なときも確実にある。
でも、最初から時間を無視した稽古をすると、どうしても後半が追っかけになってしまう。
今回は通常以上に時間が限られているため、なんとしてもイッチーの時間割通りやろうと思った。

先日バタバタとつけた段取り通り稽古を頭から追っていく。またここからは、花れんちゃんも舞台に上がり、役者たちと一緒に歌いながら芝居をしていく。
普段こういう稽古をしたことがない花れんちゃんは、アレ?このきっかけで出るの?という顔で演出席の私をあからさまに伺いつつ舞台に登場するので、その顔が可笑しくてつい、笑ってしまう。
が、初めて舞台上で、ピンマイクをつけて歌う花れんちゃんの声を聞くと、その迫力に改めて圧倒された。

役者の皆は、つけられた段取りに加え、芝居を乗せていく。
昨日より、皆台本を持つスタイルに慣れている。最初から会話のテンポを意識して皆読んでいるため、既に大人数が登場する一場は見応えのあるものになりつつある。
先日の段取りに更にキャラクター色を加えた演出をしてみる。なるほど、こういうキャラなんだ、と理解し声色や居ずまいがドンドン変わっていく役者たちを見ているのは面白い。

また、照明や音響も既に芝居に合わせてつけていただけるようになった。
背景音や明かりの変化によって、役者は普通の稽古以上に、気分が乗りやすくなる。
それは本当に贅沢な稽古だ。2場でややおどろおどろしい照明が当たるシーンでは、そこで不吉な会話を交わす役者たちも合わせて不気味な声になり、目つきも座ってきて、非常に面白い。
地元でDJをやっている桂役の女優は、背景の音楽で表情と声がパッと変化する。やはり普段ラジオで音楽に合わせ語ることが多いからだろうか。おそらくは無意識になのかもしれないが、その音に乗せ、キャラの色が濃くなっていくのがとても良い。

この日は近藤芳正さんお薦めという餃子屋「とん」で夕食。
餃子のボリュームにびびる。そして旨い。
仕事の合間に店主のおっちゃんがビールを煽っているのだが、私たちがその様子を眺めていると、気管に詰まったのか、突然、ブーッ!!と派手にビールを吐きだして仰天した。
花れんちゃんが思わず「ああっ!!」と驚嘆の声を上げる。
そのあまりの吐きっぷりに、そして花れんちゃんの声に、皆しばらく笑いが止まらなかった。
おっちゃんの、いつもかぶっているのであろう帽子には、「BAD BOY」と書いてある。
そのバッドぶりに、釘付けだった。

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9月10日 立ち稽古、後半。

先日の段取り稽古で、時間が足らずかなり曖昧だった芝居の後半部分を細かく返していく。
この頃から、一人の女優に目が離せなくなる。
その女優とは、普段は主婦であり、今回で二度目の舞台なのだとか。
言葉遣いがいつも丁寧で、品があり、日高のり子似のカワイイ奥様という風情。
経験が少ないので、と物腰で語るように、いつも謙虚に、控えめに立っている。
…のだが、いざ芝居となると、何が飛び出すかわからない。
とんでもなく恐ろしげな大声で叫んでいたかと思えば、声優さんのようにカワイイ声でお茶目な演技をしたり、またその直後、恐ろしい声に変わったりと、めまぐるしくキャラが変わりまくる。
そしてふと見ると、台本に向かい、まるで「無」の顔になってたりする。
わけがわからない。が、シュールすぎて目が離せない。

「○○さんには優しい物腰で接して、○○さんには身内感覚のがさつな感じで接してみて」
と提案したところ、片方にはプリンセスのような笑顔で対応、もう片方には般若のような表情と物々しい声で対応、とジキルとハイドのような二重人格のようになってしまい、登場人物が増えると次第に混乱してきて、優しい対応をすべき人に般若の顔を向けたりしている。
「そ、そこまでは変えなくて良いです」と慌てて訂正した。
が、彼女からすれば、私の演出に誠心誠意応えようとしてやっていることなのだとよくわかる。
わからないことはわからないと聞きに来て、どんな細かい疑問もおざなりにしない。
私の言ったダメ出しを、毎日しっかり持ち帰り、彼女なりに消化して稽古場に立っている。
それは必ずしも毎回正しい解釈になっているとは限らないが、やっている最中の彼女は、必死に、勇気を持って冒険しており、私はまずその姿勢に胸を打たれてしまい、同時に面白くてたまらない。

桑原さんはなぜ笑うのか?…ともしかして彼女は不快になっていないだろうかと逆に心配になったりしてしまうのだが、その笑いが止まらないのは、私自身、そうした彼女の女優魂が大好きだからで、嬉しくなってしまうからだと思う。
彼女の勇気と冒険に煽られるように、皆の表情もほぐれていく。
なまじ格好つけて自然な芝居をしたがる役者より、時にとんでもない誤解をしたりもしながら、懸命に立っている彼女の方が、ずっと魅力的だと思う。
私も役者としてこの姿勢をずっと忘れずにいたい、と彼女に教わっていた。

また他の役者たちもめきめき力を上げていく。
台本を持つ、という様式を逆手に取り、その台本をどう使いこなせるかで遊ぶ役者。
なるほど、そうも遊べるな…と感心してしまう。
1シーンのみ登場するともえ役の女優は、そのシーンに注ぐ熱量と集中力が素晴らしく、グッと引き寄せられる。その妹である茜役の女優も、その勢いに押されることなく、返し稽古をする度に目に力が宿っていく。

ここまで来て、皆の、芝居を習得していくペースの早さを改めて思い知る。
「一週間しか時間がない」というのは、難題でもあるが、同時に役者のポテンシャルをその竜巻のような勢いでより引き上げるのかも知れない。
ホテルに戻って、毎日原や成清と話し合う。
KAKUTAでもこんな風にありたいねと。

吐露終わり
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