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吐露始め 2006/03/16 木曜日

「て」 徹頭徹尾(てっとう・てつび) その4

そんなアクティブ・フォトグラファー相川氏と私は、時に口論になることもある。
先月上演した『満天の夜』でのこと。真ん中にどデカイ投影機が位置する独特な空間のプラネタリウム公演だけあって、かの相川氏も「これは一体、どこで(ビデオを)撮れって言うんですか…」とため息を漏らしていた。
しかしそこで大人しく引き下がる彼ではない。舞台は円形を囲むように三つの高台が設置されており、その高台の下は櫓のように空洞になっていた(そこに布を貼るかたちになっていた)のだが、その櫓の下へ潜り撮影するというのが彼の案であった。どういう状況になるのか様子がつかめぬまま私は別の準備に取り掛かり、しばらくはおのおので公演に向け動いていたが、本番が近づき、いざゲネプロへと言うあたりでどこからか「桑原さん」と相川氏の呼ぶ声がする。
見ると、私の背後にあった高台舞台は、布で隠されるはずのけこみ(舞台の側面)部分が小窓のようにポッカリと開かれてあり、そこからニュウとビデオカメラ&相川氏の顔が覗いていた。まるで野生の珍鳥を撮らんとしているバードウォッチャーの様な風情である。
「まあ、こんな感じになるんですけどね」と相川氏。
「え…あの、そんな感じですか」と私。舞台である高台の下にブラックホールのようにと開いた黒い窓はさながらのぞき見額縁ショーだ。
私「あの、布で隠したりはしないんですか…?」
相川氏「ええ、それだと見えなくなっちゃうんで」
もともとこの櫓の中で照明さんがオペをする予定になっており、片方の窓は小さく開いていたので少々の覚悟はしていた。が、しかしこの個性派な相川氏が窓から覗いているのは、あまりにも、あまりにもインパクトがありすぎる!
「あの、もの凄い気になるんですけど…」私が今にも溢れ出そうなおかしみをこらえながら言うと、相川氏は窓の向こうから野鳥の会状態でひょうひょうと返した。
「いやでもね、お客さんは上を見るわけでしょ?だったらここにいる私のことは、多分気づかないでしょう」
「いや、気になります!むしろ相川さんのことばかり見ます、絶対!!」私は必死で答えた。私がお客さんならば、役者以上にあの小窓に潜む丸メガネの方に見入ってしまうに違いない。ご自身のたぐいまれなる存在感を彼は自覚してないのだ。

吐露終わり
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