2007/08/07 火曜日
「春立つ・後編」
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翌年も雪の降る季節になるとカナエさんは男の元へ行った。
その翌年も、翌年も、翌年も。
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カナエさんは「好き」という言葉のかわりに、「幸せです」と男に伝える。
満足げにそれを聞きながらも、男はやはり自由に暮らし、何日も家に帰らなくなる。
カナエさんが「寂しい」と思う頃にはやはり、カナエさんは自分の家に帰されてしまうのだった。
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「その男、ちょっとずるくないですか」
カナエさんに言う私に、「ずるいってのとはちょっと違う」とカナエさんは返す。
「だけどね、だんだん荒れてきたよ」
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雪の降る季節になるたびにその男の元へ行くカナエさん。
だが、「寂しい」と思えばまた家に帰されてしまう。そう思ったカナエさんは、男を見ず、男をさわらず、男を何とも思わぬように努めるのだった。
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カナエさんは男に言う。
「もう来ない」
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やがて男を何とも思わなくなったカナエさんは、何とも思わないのならばここにいる意味はないと、自分で帰って行く。
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「それひどい話なんじゃないですか」
私がそういうと、カナエさんは可笑しそうに笑う。
もう一度会ってみたいと思いませんか?今なら違うように出来るかも…「私」がそういうと、カナエさんは「それ良い考えかもしれないわね」と答えた。
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そして4月も半ばを過ぎた頃、猫屋を訪れると、店はなくなっていた。
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猫屋の閉店を知らせるカナエさんからの張り紙には、雪の降る地方でこれからは過ごすつもりだと書かれてあった。その張り紙の終わりには…。
“ちがうように出来るような気になりましたので”
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「波瀾万丈なんだか地道なんだか、カナエさんたらもう」
そう呟き、「私」は桜のつぼみをいつまでも眺めていた。
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「オリジナルストーリー・魅せられる・3」
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相手のない留守番電話に向かい、話しかけ続けるリョウ。
「ねえ、前に一緒に読んだ手紙憶えてる?
会えば魅せられて自分を失い、右も左もわからなくなってみっともなくへばりつくって。
3ヶ月も300年も同じことのようにあなたを待ちわびてしまうって書いてあったやつ…。
私今、そうだよ」
リョウはまだ、はるおへの想いから離れられずにいた。
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「離さない・前編」
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旅先で妙なものを手に入れた、とエノモトさんが言ってきたのが、二ヶ月ほど前だった。《本編より》
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同じマンションに住むエノモトさんの家で、時々コーヒーをご馳走になる「私」。
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「相談に乗ってもらえないか」
そう言われ、「私」がエノモトさんの家を訪れて聞かされたのは、海岸で拾ってきてしまったという「妙なもの」の話。
それを家に連れて帰って以来、エノモトさんはそのものの近くにいたいあまり、家から外に出たくなくなってしまったという。
「このままではいけない」
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エノモトさんに言われるまま浴室に案内され、そこで見たのは、
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“人間の体の三分の一ほどの大きさ”の、人魚だった…。
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「オリジナルストーリー・魅せられる・4」
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ミチ「勝手に入って平気?」
カズ「鍵もかけてないんだから、すぐ戻ってくるでしょ」
落ちこんでいるリョウを案じて遊びに来た女友達、ミチとカズ。が、リョウは外出中。
ミチ「近所に出られるくらいは復活したのかな」
カズ「みたいね」
ミチ「良きこと。良きこと」
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カズ「意外に片づいてるね。もっと荒れてるかと思った。
ミチ「…物が減ったからだよ」
カズ「…ああ」
同棲していた部屋を、リョウを置いてひとり出て行ってしまったはるお。
はるおという男は、匂いや声や気配は強いが、実態がつかめない印象だったと語り合う二人。
ミチ「そういう人に惹かれちゃうのはわかるけどね、少し」
カズ「まあねえ…いや、でも許せん」
ミチ「うん、許せん」
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玄関の方から人の気配が。リョウが帰ってきたらしい。隠れて驚かそうと企むカズ。
何で隠れるのよ、とつっこむミチにカズはそのミチの顔を指さして…、
カズ「そんな顔見たらないちゃうかもよ?」
二人は部屋の奥に隠れ、リョウの帰りを待つことに…。
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