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吐露始め 2009/04/19 日曜日

陽だまりの猫/2

シーが乳腺のガンを患ったのは、去年の秋だった。
いつものようにシーを膝の上に乗せて、恋人と談笑していたとき、お腹に小さなイボを見つけた。ほんの小さな、何でもないかわいらしいイボだったけれど、胸騒ぎがしてお医者さんに見せに行ったら、すぐに摘出することになった。
ネコの乳腺に出来る腫瘍は、十中八九悪性らしい。シーも、やはり悪性だった。
どこからみても病気には見えない元気な様子から、にわかに信じられなかった。
降ってわいた悲劇に最初は動揺したけれど、手術も無事成功し、ガンも全摘出され、その他に転移も見つからなかった。
麻酔で気管が締められたのか、術後すぐは喉をけほけほしていたものの、相変わらずでっぷり太って元気そうだったので、獣医師の「このまま再発しなければそれでこの病気はおしまいというケースもありますし」という言葉を頼りに過ごしていた。
傷を舐めないようエリザベスカラーを渡されたけれど、太い首にカラーが苦しいのか嫌がり、対処として人間用の太股用サポーターを買ってきて腹巻きをつくり、傷を舐めないようにした。
大島弓子さんのマンガに載っていたのを、マネしたのだ。
その頃のシーは、スーよりも太っていた。
退院する際、獣医師に今後はダイエットさせましょうねと軽く言われたけれど、太っていること自体はあまり気にしていなかった。
血液検査で、「腎臓が少し値を上回っている意外は全て正常ですね。まあ高齢だとそれなりに値が上回ることはあるんで」と言われていたのもあり、あまり深く捉えてなかったのだ。
腫瘍の転移を知るためレントゲンを計った際、太ったお腹の部分を医師が指して「この辺が脂肪ですね…」と言われたときは、それまでべそべそ泣いていた私は思わずブーと吹き出した。
それはひとまず健康な証拠、だと、思っていた。

今年に入り、いつ頃からか、ネコ用の水飲みグラスが目減りするのがやけに早くなった。
腎臓がやられているとネコは水を飲みたがると言うことは、大島弓子さんのマンガなどでなんとなくは知っていたが、スーとシー、どっちのネコが水を多く飲んでいるのか最初はわからなかった。
もちろんおしっこも大量にした。けれど、食欲は旺盛だった。
何となく痩せたんじゃないかという気もしたけれど、相変わらずお腹は太ってた。
私は、トイレ砂がカチカチになるほどの尿の量で心配になり、恋人や、元恋人、母などに相談してみたけれど、皆、食欲もあるし太ってるし、心配しすぎじゃないかということだった。
冬で乾燥してるからじゃないかと言われ、加湿器をかけたりしていた。
実際その頃の私は、シーの背中に小さなニキビが出来ただけで獣医に電話したりして(それはほんとにニキビだったのだろう、すぐ消えた)、気にしすぎてる部分もあった。
そのくせ、シーがガンの時、病院通いをかなり嫌がっていたため、それがストレスになってガンに悪影響があるのではないかと心配したりして、あまり神経質になって病院に通わせてもシーが可哀想かもしれないと、病院へ行くのをしばらくの間、躊躇っていた。

だけどある時、やはり病院へ行こうと決めた。それは、ほんのささやかなシーの行動だった。
シーはドライフードのカリカリが好きで、お腹が空くと自分でフード置き場にあるシーバなどの小袋のフードを、自分であけて食べてしまう癖があった。そのたび取り上げてちゃんとあげ直したりしていたのだけど、その日は、様子がおかしかった。
ドライフードはご飯の皿に入っているにもかかわらず、新しい袋を開けて食べようとしていた。
食欲があるんだかないんだか、よくわからない。だけどなんだか、いやな予感がした。
恋人と病院へ行く約束をした。
だがその時は別の事情で行けなくなり、数日後、たまたま元恋人がうちに来たとき(この辺の微妙な関係については詳しく書かないが)、シーの様子を見て、私が病院へ行きたがっていることを知っていたのもあって、「元気がない気がするからやっぱり連れて行こう」と言いだしたのだった。

***

そして今から一週間前。
腫瘍の転移がないか調べてもらうという名目で、元恋人と一緒に病院へ連れて行った。
前と同じ動物病院で、今度はM院長先生にみてもらった。以前手術をしてくれた若い医師もその場にいたけれど、内心院長先生が看てくれるとわかって嬉しかった。
その若い医師は診断の際に、「大丈夫とも言い切れない」というような、曖昧にマイナス要素を匂わせる話し方をする人で、その先生と話すとむやみに不安にさせられる気がしていて、イヤだったのだ。
看てもらうまでは、また半年後とかに来てください、と以前に退院したときいわれていたのに、早く連れて行って過保護な飼い主だと思われるだろうかなどと変なことを気にしていたけれど、触診して悪性腫瘍のようなモノは何も見つからないと聞くとやはり安心した。レントゲンも取ってみたが、転移は見つからなかった。
ところがそんな検査の終わりに、全く思いがけない病名が飛び込んできた。
それが、糖尿病である。
記憶に留めておくため書いておくと、その時シーの血糖値は500を越えていた。通常、ネコの血糖値は高くても180以下くらいだそうで、その基準からすると、その時のシーは大いに値を上回っていた。
もしかしたら糖尿病かもしれませんから、もう少し他の値も調べてご連絡しますといわれ、それが「もしかしたら」でなくなったのは、その日の夜の、院長から検査結果を知らせる電話だった。

M先生から聞いた糖尿病を知らせるネコの症状が、それまでのシーの様子とあまりに合致していたのはショックだった。
・ 水飲みが激しく、食欲も旺盛になること
・ 多飲から当然、多尿にもなること
・ 糖尿病のネコは背骨から痩せていき、お腹は太ったままということも多いため、痩せたかな?と思いつつ気づきにくいこと
水をよく飲むことを心配はしても、食欲があるから大丈夫だと思っていた私はまさに気づきにくい飼い主、そのものだった。もしこのことを知っていたら、一ヶ月前には病院へ連れて行ってただろうと思うと、無知だった自分が情けなかった。
しかし、それを知ってもまだ、ガン告知のインパクトに比べれば、その時のショックは少なかった。
血糖値が高くなりすぎないよう、一生インスリンを投与していかねばならない病気である、ことは理解したけれど、ネコの糖尿病は人と違い、インスリンを必要としないタイプのネコもいるとM先生に聞いて、食事療法などで上手に付き合っていくことだって出来なくはないのかもしれないという希望もあった。
母に電話したら、「人間だって糖尿病を抱えてる中年は多いし、そんなに怖がらなくて大丈夫よ」と言われ、M先生の口調からしてもすぐ命に関わる病気という印象ではなかったからだ。
実際、私だけでなくM先生も、シーの抱えている糖尿病がそこまで深刻なものだとはまだこの時は思っていなかったのだろうと思う。

二日ほどかけて半日入院させ、インスリンを数回に分けて投与し、適量を見極める検査をしていきましょうということになり、翌日、今度は現恋人と一緒にシーを連れて行った。

ところが、最初に検査へ連れて行ってから、シーの体調は急に悪くなっていた。
元気がなくなり、ご飯を一切自分から口にしなくなった。
そして、夜には吐き気を催して何度も黄色い胃液を吐いた。
ガン転移の検査に行っただけなのに、なぜこれほど急に体調が悪化したのか不思議だったが、糖尿病というものがわかりにくい病気なだけに、それがネコの体調から顕著にわかる頃にはかなり進行している場合も多く、急に悪くなったように感じることも多いのだと、色々調べる中で後に知った。

吐露終わり
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